社会保障についての覚え:或いは10人のエイズ患者に対して1人分の特効薬しかない時誰に渡すか?

格差社会などと言われていまして、正社員報酬と非正規雇用における給与格差は2倍から2.5倍もの差が生まれている訳ですが、その社会保障について考えてみました。

社会保障とは何か?

定義すると「個人的リスクの範疇に入る所得の低下を国家・社会が所得移転などにより、その個人の所得を保障する」ことを言います。
日本では、社会保険制度・公的扶助・社会福祉・公衆衛生と医療制度と4月1日から変更された後期高齢者医療制度が有ります。
社会保険制度は、加入者による相互扶助が基本ですね。現在では全員加入が原則ではありますが、本来の目的は相互扶助だと言うこと、逆に、加入者が少なければその財源が減るわけですから加入者を増やさないといけません。だから全員加入の法則が日本では出来ているともいえます。
次に、公的扶助ですがこれの財源は一般租税を財源としています。つまり、国やそれに準ずる公的機関が主体となって、貧困者に最低限の保証を行う経済的援助のことです。財源が租税ですから、税金の特性上「金持ちからは一杯取っていく」という法則があります。*1
社会福祉や公衆衛生と医療制度や後期高齢者医療制度などは、経済的な支援では無くどちらかというとサービスの展開に重きが置かれていると思います。今回は、社会保険制度と公的扶助制度に焦点を当てて考えていきます。

冷たい方程式:或いは小さな政府とその財源

何にせよ、金がなければ経済的支援もへったくれもありませんので、経済的支援の財源確保から考えていくのが肝要でしょう。
公的扶助の場合、「公的」と付くように政府や国が補助するわけです。つまり財源は税金となります。
財源確保には何をすればいいのかというと「税率などの引き上げ」が一番手っ取り早い訳です。もちろん、政府が金を作る方法は税金だけではなく、金融取引による差益や借金(国債)という手段もあります。しかしながら、税金の占める割合は60%から70%位の占める割合が多いわけですね。*2
もうひとつは、財源が決まっている以上支出を減らせばいいと言う考えがありますね。
実際内訳を見てみると、社会保障に掛けている金額は国家予算の1/4を描けていたりするんですね。
また、1/4は国債などの借金の返済に。残り半分で公共事業や国防費や地方交付などに割り当てられているんです。
ちなみに、借金の金額は日本の税収の10倍分くらい貯まってます。つまり、税収の100%を借金返済に充てたとして10年も掛かるって位!
すでに社会保障で1/4を使っている以上、他のところで節約したとしても焼け石に水なんじゃないかなとも思います。どちらにせよ少ないパイを切り分けるような話なのですよ。
特に琴子のポリティカルポジションは小さな政府志向のリベラル派ですから、(特にリラベル指向は結構高い)
夜警国家としての最低限の税率でやってもらいと思っています。
 
冷たい方程式っていうSF小説があります。有名なので知っていると思うのですが……。
疫病が流行った惑星へ血清を持って行く小型宇宙船での物語ですね。酸素も燃料も最小限の量しか積んでいなかった。そんな宇宙船で疫病にかかった兄に会うために密航した少女が見つかる。このままでは、安全に惑星に着陸できないだけではなく血清を待っている兄の命までも危険にさらされることになる。パイロットは最善と思われる行動を取り、しかし到着には密航者を投棄するしかなく、最善の行動で得ることの出来た時間を兄への手紙や兄との無線連絡に使い、投棄されるためにエアロックに入ることになるのでした。
投棄される少女の最後の台詞「わたしが死ぬ、あなたがそれをする、でもわたしは死ぬようなことはしてないわ――死ぬようなことはなにも――」というのは、知らぬものの叫びといえましょう。
ま、今の政府が最善の行動を取っているかというのは疑問が残りますが、やはりサイズの決まったパイはそのサイズで分けないといけないのだと思います。

10人のエイズ患者に対して1人分の特効薬しかない時誰に渡すか?

つまり、人の命に序列は作れるか?という問いと平等に対する考え方についての話といえます。
解決の方法はいくつかあります。

  1. 誰にも配らない
  2. 1/10に砕いてそれぞれ配布
  3. くじ引きまたはじゃんけん
  4. 当事者間で話し合いで合意を得るまで
  5. 当事者同士の多数決
  6. 当事者内で代表者を作りその人が誰に飲ませるかを決定

などなど、1,2については全く誰も助からないという話し。
4,5,6についても、当事者の構成によって平等じゃなくなりますし、「8人の中国人に2人の日本人」とかだとね。つまり、マイノリティに対する対応は出来ないよねって事。
つまり、私は1,2を否定しますので「つまり誰も助からないよりは誰かが助かるべき」という計量的理論。から「最大多数の最大幸福」を是とします。次に、4,5,6の否定により「当事者間の決定には疑問が残る」という立場を持ちます。
故に、私の考える最適解は、当事者間で第三者を多数決で決定してそれを指名、そしてその指名された代表者がさらに直接利益に関係のない専門的な知識を持つ人に「最大多数の最大幸福」を基準とした裁定をさせるというのが公平なんじゃないのかな? と思います。

トリアージという考え

その際、重要になるのが最大多数の最大幸福の原則です。つまり、命の序列を作り上げるって事ですね。
基本的に加算法で行きましょう。「この人は年若く、直ることでこの先生きる時間が多いと思われる」で加算とか「この人は、医者であるため回復した後、他の人の命を救う可能性があるから」で加算とか「この人は犯罪者で、刑務所にあと○年はいることになっていてその時間の社会貢献はないから、残りの時間を加算して……」とかといった計算を行う訳です。
命の計算をする上では常に「冷たい方程式」の上で行動すべきであるわけです。
トリアージもそうですね、心得に「機械的かつ迅速に行う事」ってのが有るわけですが、大前提として、「ある程度の見殺しはやむを得ない」の上に成り立っているわけですね。切るパイが少ない以上食べれない人がいるのも当たり前という前提です。
 
ただし、軍事的なトリアージと、災害救助的なトリアージとでは意味が異なりますね。
小破したザクと大破したザクなら、先に小破したザクから補修して戦前に立たせるわけです。兵士も一緒で、軽傷者の治療を優先し、重傷者は後回しって考えになります。軽傷者を直して戦前に立たせることで銃後の安全を求めた方が「最大多数の最大幸福」に繋がるわけです。戦場の理論ですが「何人戦場に立たせられるか?」が重要なのです――変わって災害救助のトリアージは(回復する可能性の高い)重傷者を優先して直していくという方式です。こっちの最大多数の最大幸福は「何人生きるか?」が重要になるわけです。

話を戻して

社会保障についても同じ事がいえるのだといえます。
社会保障の拡大には二つの方向性があります。一つは「分けれるパイを大きくする」もうひとつは「トリアージによって重傷者(緊急的に保障しなければならない人)から助けていく」って事なんだと思うわけです。
前者の場合、税金が高くなってしまいさらに保障しなければならない人が増える可能性もあります。
後者の場合は、裁定からあぶれる人が出てくるという事です。
最大多数の最大幸福を考える上で、さらに保障しなければならない人を増やすよりは、裁定からあぶれる人を如何に救済するか(経済的支援以外の方法で)に力を入れるべきなんだと思うわけです。

*1:消費税などは、平等に租税がかかる訳ですが、やっぱり10万円の買い物と1000万円の買い物とでは納める金額が変わりますね

*2:MOFからのデータ。http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014.htmより