旅行先で聞いた話し

旅行に行ってきたというのは、前に書いたとおりです。新幹線で、越後湯沢でほくほく線と言うのに乗り換えるのですが、普通だと特急に乗ったりするんですが、今回は各駅停車に乗ることにしたんです。

地方の鉄道らしく、無人駅がいっぱいという状況なので、「ワンマン」というメズラシイ鉄道なんですけどね……。
どういう形式かというと、バスに乗ったことがある人なら解ると思うのですが、料金箱が車両の前にあって、無人駅の所は、電車は先頭車両の一番前しか開かない仕組みになってました。

また、扉の開き方も面白く、開閉ボタンというのが列車の内外にあって、乗る人や降りる人はボタンを押して降りると、いう形式になってました。

折しも最終列車から数えて2本目の列車、普通なら特急を乗る人が多いので、始発駅で5人くらい、途中の十日町という駅でほとんどの人が降りてしまい。そこから先は、乗客は私一人という形に……。

全行程の7割近くが私と運転手さんのみのまあ、贅沢と言えば贅沢な貸し切り列車になっていたんです。

途中駅の2カ所で10分程度の特急待ち合わせがあったのですが、運転手さんも休憩のためか、私の座っていたシートの正面に座って、世間話をすることになりました。

最初の頃は、この線の特徴らしい、メズラシイ日本では此処だけの鉄道信号があるんだよとか、山間を抜けるのでトンネルが多いから、車両にプラネタリウムを付けた車両があるとか、運転手さんはお話ししてくれました。

単線がほとんどで、特急列車が多いから普通の列車でも最高速度110Km/hという地方の鉄道とは思えないような速いスピードを出すとか物珍しい事を教えていただきました。


2回目の特急待ち合わせ休憩の時に、お話ししてくれた内容なんですが、私が最近怪談話を作ってアップしているのを見こうしたような内容でちょっとビックリしたんですが、こういう話しを得たというのも何かの縁かもしれないと此処に書いておきますね。

2回目の特急待ち合わせ駅は、やはり無人で、山間のトンネルとトンネルの間に出来た駅でした。

運転手さんは私が行き先を予め告げたんですが律儀に、「えー、次は●●駅、この駅で特急待ち合わせのため10分ほど停車します。おトイレ等は待合室の階段を下りて左側にあります。また、出発時間は××分になります。」と案内をして、駅に到着後ニコニコしながらまた私の前のシートに腰掛けてお話をし始めました。

「この辺は温泉地でねー、この駅を降りて少し山に行ったところに、温泉があるんだよね〜」
「温泉ですかー、そう言えば山の中ですものねー」
「この辺はトンネルの連続でねー直ぐそこにもトンネルがあるだろう?」
と言いながら運転手さんは駅から150メートルくらい先に見えるトンネルの方を向いた。私もそれに連れられるように、トンネルを見た。照明もなく、ただただ、暗い闇が月明かりに照らされた山並みとコントラストを結んでいました。
「この線の工事をしたときにねー、そこのトンネル工事で温泉が出たんだよ」
「工事の時にですか?」
「あぁ、地下水が出てくるって言うのは良くある話しだけど、温泉が出るって言うのはなかなかねー」
なるほどそうだろうと思いながら話しを促す。
「当時の工事の時には、蒸すだろ〜、力仕事だし汗もかくし、温泉の蒸気でトンネル内が異常な暑さになってねー。温泉の温度も、90度とか温度があったらしくて、事故で死んだ奴も居たらしいんだよねー。」
と、悲痛な面持ちで語ってくれた。

話を変えるかのように運転手さんは続けた。
「一昨日な、一人の客をこの駅で乗せたんだよ」
「土方風の風体で、白いタオルを首に引っかけてさ……。」
「ヘルメットもしてるんだよね」
「俺も変だなぁ?とは思ったんだよ……。」
「一昨日は雨でね、傘もささずに居るから濡れそぼっちゃってね。座られるのもアレじゃないか――でも、1両目の車両の後ろに立って出発を待ってたんだよ」
なんの話しだろうと訝しげな気持ちになりながら、運転手さんさんが目をやった方――おそらく一昨日その男が立ったであろう一両目の後ろ部分に目をやる。
「次の駅で気付いたらその男は居なかったんだよ――あれ? 変な夢でも見たんかな? 思いながら、終点まで運転したんだけどね……。終点の直江津で車両の清掃をしたんだけど、床が濡れてるんだよ……。」
「こりゃー、不思議なモノを見たワイと思ってねー。お盆時だし家族の所に帰ったんかなと思ってね……。うちに帰って仏壇でお祈りしたよ」

私は想像をする。
一人の幽霊が、この電車に乗り、家族の元へ帰郷する様子を。


「変な話しをしちゃったねー、怖がらせるつもりは無かったんだが、どうも一人が嫌でねー。お客さんがいて助かったよ」
と、年配の運転手さんはカカカと笑った。