真夏の怪奇特集その3

こんな夢を見た。

と言う一節で始まる有名な夏目漱石の「夢十夜」という小説もあるのですが、なかなか幻想的で面白い短編なのでお勧めするわけですが、私も漱石に習い、こんな夢を見た。から始めましょう。


こんな夢を見た。

ある一人の男の子が遠くから何かを伝えようとしているようなゆめだ……。
初めて見たのはだいぶ幼い頃だったのだけど、なにやら変な夢を見たなと思ったわけです。
夢に感触があるとか言うか何ともリアルで目が覚めても夢の世界と現実の世界の区別が上手くつかないような混乱をもたらしそうで、子どもながら怖い夢だなと思っていました。

毎日連続するように見るというわけでもなく、何かふとした拍子に思い出したかのように、同じ夢を見るのです。
表情の見えない男の子が私の方に向かって何かを言っているのですが、上手く聞くことが出来ずに居るという夢――

しばらくそんな夢のことは忘れていたんですが、小学校時代からの友人の訃報を聞いた日に、また、同じ夢を見たんです。

やはりというか、夢の中の男の子はあの友人でした。
不思議と言えば不思議ですが、恐怖感は無くその子に近づいて行くことができ、彼が何を言っていたのか聞き取ることが出来たのです。

友人は「すきまだよ」と言って消えたんです。

消える瞬間、かれは悪戯っぽい目で私を見たのが気になりました。
「すきま」の意味がわかったのは翌日の夜のことでした。
タンスとタンスの間だ、壁と冷蔵庫との間だ、テレビとビデオデッキの間だなどの狭い空間――。
つまり「すきま」とは「隙間」のことでした。
それからです、世に言う怪異と呼ばれるモノが見えるようになったのは……。
冷蔵庫と壁との隙間に、血に染まった黄色の雨合羽を着た女の子――
タンスの間には、両手の無いどこかよそ行きの格好をした男の子――
テレビとビデオの隙間から覗く、赤く血走った目……。
障子と障子の間には、顔の爛れきった首だけの女……。

友人は生前、「誰もが隙間から霊に見られていることに気付いていないんだよな」と言っていたのを改めて思い出したのです。

「あぎょうさん さぎょうご 如何に?」